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象 (クルアーン) : ウィキペディア日本語版
象 (クルアーン)[ある ふぃーる]

(アル・フィール、)とは、クルアーンにおける第105番目の章(スーラ)。5つの節(アーヤ)から成る〔日本ムスリム情報事務所 聖クルアーン日本語訳 〕。章題は第1節の「象の人々」に由来しており、西暦570年頃に戦象を引き連れてマッカを襲ったエチオピア軍が神の奇跡で退けられた様子が描かれている。この年は「象の年」と呼ばれており、伝統的にはムハンマドが誕生した年であるとされているものの異説も存在する〔井筒 (1958) 355頁。〕〔小杉 (2009) 118-119頁。〕。クルアーン注釈書では、この神の奇跡がなされた50日後にムハンマドが生まれたとされている〔アル=マハッリー、アッ=スユーティー (2006) 623頁。〕。象章は、次のクライシュ族章と併せて1つの章だったのではないかという説も存在しており、この2章をひと続きの章として解釈されることもある〔ベル (2003) 164頁。〕。文体はクルアーンに良く見られる母音韻が踏まれており、語尾の短母音を無視する形で「īl」の韻が踏まれている〔ベル (2003) 164頁。〕。
== 歴史背景 ==
当時、海洋貿易の権益を確保するため紅海からアラビア海にかけての沿岸地方への勢力拡大を目指していたビザンツ帝国は、同じキリスト教国であるエチオピアアクスム王国を後援して525年イエメンヒムヤル王国を滅ぼして支配下に置くなど、アラビア半島に勢力を伸ばしていた。エチオピア軍がマッカに侵攻した目的は、キリスト教国であったアクスム王国が多神教の神殿であるマッカのカアバ神殿を破壊して教会を建てるためだったとも〔小杉 (2009) 117頁。〕、イエメンからガザに至る陸上交易路の中間に位置していたマッカの商業都市としての重要性に目をつけたとも〔、商業により繁栄していたマッカの資産を奪うためだったともいわれている〔。また、ジャラーラインのクルアーン注釈では、メッカの巡礼者を奪うためにイエメンのサナアに建設した教会に対してキナーナ族(ムハンマドの出自であるクライシュ族を支族に含む部族)の若者が汚物で侮辱したため、その報復としてマッカのカアバ神殿の破壊するためにマッカを攻撃したとされる〔アル=マハッリー、アッ=スユーティー (2006) 622頁。〕。
エチオピア軍がマッカに侵攻した時のクライシュ族の指導者はアブドゥルムッタリブであった。アブドゥルムッタリブはムハンマドの祖父に当たる人物であり、後に両親を亡くしたムハンマドを引き取り彼の保護者となっている。アブドゥルムッタリブはエチオピアの侵攻の際に自身の資産であるラクダをエチオピアに奪われたが、その返還交渉の際にラクダを返還する代わりにカアバ神殿の安堵を約束するというエチオピア王の提案に対して、神殿は神が自分の手で守ると言ってラクダの返還を求めている。このエピソードから、イスラム研究者の小杉泰はクライシュ族はエチオピアに対抗できるだけの軍事力を有していなかったと述べている〔小杉 (2009) 117-119頁。〕〔。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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